労働契約成立時の就業規則と労働契約の関係(第7条) of 労働契約法のポイント

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労働契約成立時の就業規則と労働契約の関係(第7条)

第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

趣旨

 我が国では、正社員として会社に入社する場合には、一般的に終身雇用制が確立しています。このような場合、個別に締結される労働契約では詳細な労働条件は定められず、就業規則によって、統一的に労働条件を設定することが広く行われています。この就業規則で定める労働条件と、個別の労働者との労働契約の内容である労働条件との法的関係については、法令上必ずしも明らかになっていませんでした。

 このため、労働契約法第7条は、労働契約の成立時においての就業規則と労働契約との法的関係について明確にしています。

<参考> 労働契約と就業規則との関係に関する裁判例

1.秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決)

「元来、『労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである』(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができる。」

民法
(任意規定と異なる慣習)
第九十二条  法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。

「就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。」

「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであ」る。

2.秋北バス事件最高裁判決を踏襲した裁判例

 ① 電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決)

「労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、その定めが合理的なものであるかぎり、個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質を認められるに至っており、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決〈秋北バス事件〉)、使用者が当該具体的労働契約上いかなる事項について業務命令を発することができるかという点についても、関連する就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の内容となっているということを前提として検討すべきこととなる。換言すれば、就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる。」

 ② 日立製作所武蔵工場事件(最高裁平成3年11月28日第一小法廷判決)

「労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)32条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決〈電電公社帯広局事件〉)。」

3.就業規則が拘束力を生ずるためには周知が必要であるとした裁判例

 ① フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)

「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和54年10月30日第三小法廷判決〈国労札幌支部事件〉)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決〈秋北バス事件〉)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。」

内容

 労働契約法第7条は、労働契約で労働条件を詳細に定めずに労働者が就職したときに、次の両方の要件を満たしている場合は、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容を補充して、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」という法的効果が生じます。

  1. 合理的な労働条件が定められている就業規則が作成されていること
  2. その就業規則を労働者に周知させていたこと

 例えば、労働契約では、定年に関することや退職金に関することが定められなくても、上記の1.と2.の条件を満たした場合は、就業規則に定めている定年に関することや退職金に関することが労働契約の内容を補充して、労働契約の内容になるということです。

 これは、労働契約の成立についての合意はあるものの、労働条件を詳細に定めていないときでも、就業規則で定める労働条件によって、労働契約の内容を補充することにより、労働契約の内容を確定することになります。

「合理的な労働条件」とは

 ここでいう「合理的な労働条件」は、就業規則全体で判断するもの者ではなく、個々の労働条件について判断されるものです。したがって、就業規則の中で合理的な労働条件を定めた部分については労働契約法第7条の法的効果が生じますが、合理的でない労働条件を定めた部分については同条の法的効果が生じないことになります。

 また、就業規則に定められている事項であっても、例えば、就業規則の制定の趣旨や根本精神を宣言したような規定や労使協議の手続に関する規定など、労働条件でないものについては、当然、労働契約法第7条によっても労働契約の内容とはなりません。

「就業規則」とは

 ここでいう「就業規則」とは、労働者が就業上、遵守すべき規律や労働条件に関する具体的な細目について定めた規則類の総称をいいます。そして、この「就業規則」には、次の両方の就業規則が含まれます。

  1. 労働基準法第89条で定められている、常時使用する労働者が10人以上の事業場で作成と労働基準監督署への届出を義務つけられている「就業規則」
  2. 労働基準法第89条で作成等が義務づけられていない、常時使用する労働者が10人未満の事業場で、任意に作成された「就業規則」

労働基準法
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

周知とは

 ここでいう「周知」とは、例えば、次の1.から3.のような方法により、労働者が知ろうと思えば、いつでも就業規則の存在や内容を知ることができるようにしておくことをいいます。

  1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
  2. 書面を労働者に交付すること
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

 上記の1.から3.のように、周知させていた場合には、労働者が実際に就業規則の存在や内容を知っているかいないかにかかわらず、労働契約法第7条の「周知させていた」に該当します。

 なお、労働基準法第106条に定めている「周知」は、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第52条の2によって、上記1.から3.までのいずれかの方法によらなければならないとしています。

 しかし、労働契約法第7条の「周知」は、これらの3つの方法に限定されず、その他の方法であったとしても、実質的に周知されているかどうかが問われます。ただし、刑事上の問題として、3つの方法以外の周知方法をとった場合は、労働基準法106条違反になる可能性はあります。

労働基準法
(法令等の周知義務)
第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第五項及び第六項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び第五項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。

労働基準法施行規則
第五十二条の二 法第百六条第一項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

 また、労働契約法第7条の「労働者に周知させていた」とは、その事業場で既に働いている労働者や新たに労働契約を締結する労働者に対して、あらかじめ周知させていなければなりません。もちろん、新たに労働契約を締結する労働者については、労働契約の締結と同時に周知させる場合も含まれます。

 すなわち、その事業場で既に働いている労働者にあらかじめ周知させておき、新たに労働契約を締結する労働者に締結と同時に周知させることで、この要件を満たすと考えられます。

就業規則を新しく制定する場合

 労働契約法第7条は、本文に「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において」と規定されているとおり、労働契約の成立時のみについて適用されます。

 したがって、既に労働者と使用者との間で労働契約が締結されている状態で、就業規則が存在しない事業場で、新たに就業規則を制定した場合については、適用されません。

 また、就業規則が存在する事業場で、就業規則の変更を行った場合については、労働契約法第10条の問題となります。

就業規則と異なる個別の合意がある場合

 労働契約法第7条では、前述の通り、就業規則が労働契約の内容を補充することを規定していますので、労働契約において詳細に定められていない部分は、同条の規定による法的効果、すなわち、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」ことになります。

 そこで問題になるのが、労働契約で定める労働条件と就業規則に定める労働条件とが異なる場合です。このような場合は、次の2通りが考えられます。

  1. 労働契約で定める労働条件が、就業規則に定める労働条件の基準に達しない(不利な)場合
  2. 労働契約で定める労働条件が、就業規則に定める労働条件より有利な場合

 そこで、「1.労働契約で定める労働条件が、就業規則に定める労働条件の基準に達しない(不利な)場合の場合」について、労働契約法第12条で、次のように定めています。

(就業規則違反の労働契約)
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

 したがって、労働契約で定める労働条件が、就業規則に定める労働条件の基準に達しない場合は、その部分について就業規則で定める基準によることになります。

 それでは、「2.労働契約で定める労働条件が、就業規則に定める労働条件より有利な場合」はどうなるのかといえば、就業規則で定める労働条件より個別の労働契約で定める労働条件の方が有利ですから、労働契約法第12条は適用されず、その合意が優先することになります。

 例えば、ある労働者が、勤務地限定の労働条件で労働契約を締結した場合(勤務地限定の条件で入社した場合)、就業規則に転勤を命じることができる規定があったとしても、この就業規則の規定より個別の労働契約の内容(勤務地限定の条件)が優先されますので、この労働者を転勤させることはできません。

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